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【本】奴隷小説/桐野夏生 著 感想 社会のどん底の闇を桐野夏生が唯一無二の世界観で描く短編集。

全然本を読む気力がなくて、でもちょっと何かを読みたくてフラっと本屋に寄り道。

平台に目立つように飾られた宮部みゆきのミステリー作品、【悲嘆の門】が気になったけど、心によぎる(文庫で上、中、下のでこの厚みで3巻か・・。宮部みゆきにしては比較的短い方だけど、さすがに今この状態で読み切れる自信がない)という思い。

そんな時、同じ平台で、一個だけ他の本より低くぽっかり穴が開いたようになっていたのが、桐野夏生【奴隷小説】でした。

(あー、桐野夏生があるじゃん! しかも薄い!これにしようっ!)って買ってきてすぐさま読みました。短編集で文庫自体かなり薄いので、相当遅読のわたしでもすぐ読み切れました。

 

 

奴隷小説 (文春文庫)

奴隷小説 (文春文庫)

 

 

 桐野夏生の本は、わたし、本当に夢中になってしまう。

本を読んでドバドバーっと、ドーパミンが出るのが桐野夏生を読んでる時が一番の気がする。

今まで色々読んだけど、作家の中で一番好きなのが、桐野夏生なんだと思うんです。

すごく好きで、わたしは面白いと思うしこんなブログに記事を書いて言うのもなんなんですが、迂闊に『すっごく面白いよ!読んで!』と気軽に人に勧められない作風(笑)

 

こちらの作品は様々な形の『奴隷』をテーマにした、7つの短編で構成された短編集です。

 

奴隷って、ウィキペディアを見ると、

 

奴隷(どれい)とは、人間でありながら所有の客体即ち所有物とされる者を言う。人間としての名誉、権利・自由を認められず、他人の所有物として取り扱われる人。所有者の全的支配に服し、労働を強制され、譲渡・売買の対象とされた。

 

とあります。

 

確かにそういう話で構成されてる短編集ですが、違う形の奴隷のお話もありました。

なんだろう、きちんとした(というのも変だけど)奴隷のお話もあったり、一言で奴隷と語れないような話もあったし、奴隷のお話なんだけど違うことが言いたいんだろうなって感じる作品もあった。

とにかく、夢も希望も救いもない短編7編なんです。

架空の世界の架空の人たちの現実感があるようでないような、嫌な夢のような感じです。

 

1作目の『雀』は、村社会の一番底辺にいる女性とその女性の娘である少女のお話でしたが、相変わらず男性への憎悪が溢れる短編でした(笑)

女性蔑視をする男性に対しての憎悪が年々エスカレートして、オブラートに包まない書き方になっているような気がします。

それでも初期の頃の作品は愛憎って感じだったのに(笑)

いつも思うんですが、電車でたまに桐野先生の作品を読んでいるサラリーマンを見かけることがあるのですが、こういうの読むとき男性はどう思っているんだろう。

桐野作品に慣れしたんだわたしですら、さすがに、そこまで言わなくても・・と思ってしまうほどの書きなぐりぶりです。

でも、その1作目で一気に本の中に引き込んでくれました。

 

 

どれも印象深い心に残る作品だったのですが、強いて一本ピックアップするとすれば、中盤に出てくる現代社会に即したリアル感のある『神様男』ですね。

売れない地下アイドルとその家族、アイドル好きの男の4人のストーリーです。

アイドルとして実力に難のある売れない地下アイドルと、その母親と、容姿に恵まれた自分もアイドルになりたい妹、娘のイベントで知り合ったアイドル好きの男性。

ただただ淡々と、ドキュメンタリーのように描かれる生活感。

奴隷って、簡単に言うと支配するものとその支配を受け入れるものということだと思うのですが、なんていうか切ない読後感でした。

 

 今、わたしは作品の中のような奴隷生活はしていないけれども、

でも、もしかしたら、文庫の表紙の絵、ピンクの象はわたしなのかもしれないと思ってしまう力のある作品でした。

桐野夏生好きは読んだ方がいいです。

初めて桐野夏生を読む人はやめたほうがいいと思います(笑)

初心者一作目にこの短編集はおススメしません。

 

 

次回作も期待しています。

次はもっと長編が読みたいです。

 

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